臨床心理士である著者には、前作「数字と踊るエリ」でもつづったように、自閉症の娘・エリがいる。 「娘を育てる過程で、これはいい記録になるとずっと思っていました。これまで自閉症児にスポットを当てた本はありますが、その家族について書かれた本はありません。障害のある子供と共に暮らすとはどういうことか。きれい事では済まない現実を知ってもらいたくて、妻の病歴も含めありのままの家族の姿を書きました」 娘の療育記録であると同時に、決して外からはうかがい知れない家族の苦闘を赤裸々に描いたノンフィクション。興味深いのは夫、妻それぞれの目から見た日常、そして心情を吐露している点だ。 著者夫妻が待望の子供を授かったのは、2人で立ち上げたカウンセリング業が軌道に乗りだした13年前。成育過程で祖母と母から虐待されていた妻は温かい家庭を夢見ていたが、退院した日からつまずいてしまう。