ゲゲゲ…と思った時にはもう手遅れ。Aさんは顔を真っ赤にして、厳しい口調で「なぎこさん!」と叫んだ。そして僕に聞かれたくないのか、再び遠野の耳元で何かつぶやくと、そこからふたりの口論が始まった。ただ、こんな“口論”を見たのは初めてだった。 玉を打っては耳元で囁き合い、また打っては耳元で囁き合い…。ロマンティックじゃない囁き合いがあるということも僕は初めて知った。小声での口げんかって、一見迫力ないように見えるでしょ? でも最初は僕の目を気にして平静を装っていた遠野が、どんどん目がつりあがって険しい表情になって、ゲーム終盤では、もうちょっと直視できないほどの形相。はい、怖かったです、すごく…。 およそ40分後、ゲームセット。もちろんAさんの勝利だ。しかしAさんの強い希望でもうワンゲーム。延長戦にもつれこんだ。 「帰る!」。それまであんなに小声だった遠野は、突然大声でそう言い捨てると、Aさんと僕を
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