俺は、溜まっていた何通かの書類の中から、彼がついている事件の書面を拾って一読した。 ファクシミリの日付は深夜2時を過ぎていた。 きつと、今日もよれたスーツを着て、使いこまれたぼろいキャリーバッグを転がしながら、息を切らせて期日ギリギリに現れるに違いない。 その姿が容易に想像できて、何やらちょっと愉快な気持ちになった。 俺が、その弁護士と知り合ったのは、書記官に任官して間もない頃だったと記憶している。 彼は、一見して冴えない男であり、案の定、独身であり、どちらかというとダサい子が多い裁判所女子にすら陰でダメ出しされているような男であった。 独立して間もないのか、今で言う即独だったのか定かではないが、いつも忙しそうで、実際、何から何まで自分一人でやっているようであった。 ある時、俺は、彼のため息混じりの愚痴を聞いた。 「実は、これから保全をやらないといけないんですが、どうしてい