いよいよ没水式が迫ってきたと喚きつづける鉄鍋屋の親爺を、スクールゾーンの自作ねじろから引きずり出す方策について、分離町商店街の話し合いはこの二週間ほど、毎晩のごとくひらかれていたが、なにぶんにも対手が壜を所有しているのかどうか不明瞭なこともあって、とうとう今夜で三週間目になるなと固定暦を見ながらぼんやり考えていると、鉱線電話がぎじりぎじり鳴って、やはり私と狼少年が出向くことになった。 午前中、中学園の園舎への道はうす黄色い靄につつまれ、狼少年は半袖からのぞく両腕の体毛がべっとりとすると言って、濡れた肌をしきりに大陸手拭いでこすっていた。 ごたぶんに漏れず狼少年の狼めいた部位は両腕の剛毛だけで、ならば長袖防護服を着ればよいのではないかと、私はあらためて思ったが、そうすると狼少年を狼少年と証立てる一点も見えなくなってしまうので、彼は彼なりの思想を持ってビリー・ワイルダーのTシャツをまとっている
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