社会人になって二十年ほどになるが一度だけ転職したことがある。12年前のことだ。当時、僕は三十代に差し掛かった働き盛りで、大卒後に就職した会社で充実した日々を送っていた。仕事は忙しく、上司は厳しかったけれども、営業という職種が僕の性格にマッチし、他部署に配属された同期入社の連中ともウマがあって、慌ただしくも楽しい日々を送ることが出来ていた。今思えば社会に出たばかりであらゆるものが新鮮に僕の目には映っていただけかもしれない。そんな職業生活を送っていたので「完璧ではないけれども充実しているし、このままこの会社で定年まで働こう…」と当時の僕はぼんやりと考えていた。本当に僕の中には退職や転職という考えは全くなかったのだ。 けれどもそれから間もなく僕はその会社を退職することになる。転職先の目処も立っていないうちの、追い詰められての退職だった。下手な撤退戦だった。 勤めていた会社に迷惑をかけるわけにはい