こんな話がございます。 伊豆国熱海を、南東の海上へ去ること三里。 名を初島ト申す小島が、沖に浮かんでおりますが。 この島の開闢は、さる姫君の漂着から始まったトカ申します。 その昔、日向国に初木姫ト申す美しい姫がおり。 何の因果かこの島へ流されてまいりまして。 毎晩、無人の島から寂しく対岸を眺めましては。 焚き火を焚いて人の気配を求めておりました。 やがてこれに気づきましたのが。 伊豆山の伊豆山彦ト申す一柱の神。 さっそく姫は萩で筏を組みますト。 いとしい男神に相まみゆるべく。 どんぶらこ、どんぶらこ。 海を渡っていったトいう。 その育てた子らの末裔が。 今の伊豆山権現であるト申します。 さて、この初島の船着き場に。 遠く伊豆山を望むように立つ大きな松がある。 名を「お初の松」ト申しますが。 その由来にはこんな秘話がございます。 初島にまだ人家が六戸しかなかったころ。 そのうちの一軒に娘がひ
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