繁華街を歩いていたら、尋常でない声が聞こえた。立ち止まると、五十がらみの男性がひとまわり年下の男性を怒鳴りつけていた。ふたりとも控えめなデザインの上等なビジネススーツに身をつつみ、きれいに磨いた靴をはいていた。そんな状況でなければ、いかにも良き社会人たちに見えたことだろう。 怒鳴っている年長の男性は目をつり上げ、首まで真っ赤に染まっていて、もとは端正だったと思われる顔立ちがときおり痙攣して崩れていた。怒鳴られている男性は顔が見えないほど頭を下げ、顔を上げてまた下げるのではなく、下げている位置からまた更に下げようとしているらしかった。 通行人が立ち止まって遠巻きに見ている中、怒鳴っている男性の台詞はしだいに単純化し、最後には聞きとりにくい発言の中に「私を否定したな」ということばが繰り返し出てくる状態に至った。そして彼は不意にからだの向きを変えてすたすたと歩きだし、私のすぐ横を通って雑踏の中に