ヘグルンドは、すでに邦訳のある三本の論文から、ポスト現代思想の旗手メイヤスーをデリダ哲学の見地から批判した論客として認知されているかもしれない。本書は、彼のデリダ論の全貌であり、巻末には、雑誌掲載されたメイヤスー論が特別に収められている。論争する思想家ヘグルンドの姿は本書でも健在だ。論敵の立場をしっかりと見定めて、相手の問題点を理詰めでていねいに論駁し、明快な論理で周囲を説得しようとする姿勢がうかがえる。その意味で『ラディカル無神論』という本書の題名も示唆的である。 今日、デリダには倫理的な哲学者のイメージがつきまとっている。「脱構築は正義である」という定式を打ち出した『法の力』以降、倫理・法・政治を問い直す論考をいくつも発表してきたことを考えれば無理もない。デリダの思想にひそむ論理を丹念にたどってきた研究者たち自身でさえ、その論調を、留保の括弧とともに“政治的”あるいは“倫理的”な転回と