この物語は、“鬼”と呼ばれたひとりの年老いた高校野球指導者の人生を描いたものである。 PL学園という史上最強とも称されるチームに挑み続け、跳ね返され続けてきたこの1人の野球人の生き方を、我々はどう評価し、伝えれば良いのか――。 『清原和博 告白』の雑誌連載も手がけた、今もっとも注目すべきスポーツジャーナリスト鈴木忠平の筆による記事をNumber Webにて特別に公開する。 文章量は並のネットメディア記事の数倍から十倍を超えるので、読者の皆様にはどうか覚悟して読み進めていただきたい。ただし、読後の感動は数十倍、いや百倍を超えると保証する。 Number Web編集部より 豊田義夫はもう50年以上もバットを手に、グラウンドに立っている。 82歳。 すっかり色の抜けた頭髪は、洗いたてのユニホームほどに白く、日差しをたっぷり浴びた褐色の肌とのコントラストが、その印象をより鮮烈なものにしている。高校