まるで一軒の家が移動しているような光景だった。 16頭立ての巨大な馬車である。 絢爛な装飾に見え隠れする頑強で重厚な造り。 想定外の急襲にも篭城策で対応できそうな、いわゆるVIP御用達の仕様であることが一目で判る。 更にその豪華な馬車の前後を、それぞれ4名ずつの騎馬兵が固めている。 重そうな甲冑を物ともしない屈強な兵士8名が取り囲む馬車。 そしてこの、物々しい雰囲気を周囲に撒き散らしつつ進行する騎兵小隊は、校門の前で停止した。 「遠くで降ろしてって言ったのに!もう!お父様のバカ!」 ちょうど登校時間の真っただ中、多くの生徒、学生が学び舎への門をくぐろうとするそのときに、こんな場違いな馬車が止まれば誰だって注目してしまう。 厳重に閉められていた扉が、ガコンという大袈裟な音と共に開き、中から少女が悪態をつきながら飛び降りた。 それを追うように、身なりの整った老人が慌てて降りる。 「お嬢様、ご主