北穂の幕場あたりに出た時はもうあたりは真っ暗。 11月下旬なのに下界で花火が上がっている。 嫌な予感。 新雪のラッセルに閉口して知らず知らずのうちに稜線通しのルートになる。 行き詰まると涸沢側の雪面をずるずる降りて、また少しずつ斜めに上がり稜線で行き詰まったら、雪面をずるずる降りる。 それをいくつか繰り返し、ふと正面を見ると北穂の小屋が同じ高さのすぐ目の前に見える。 あら、おかしいな。滝谷の下降点はいつ通り過ぎたのだろう。 50㎝の段差を飛び降りる。 あ、と思った瞬間ピッケルを握りしめ、制動確保。(滑落停止) うっそ。雪面がない。 空中だ。 頭から落ちていく。 握りしめたピッケルはどこかにぶつかり簡単に飛んでいった。 岩がどんどん近づいてくる。 岩に頭から突っ込む。 火花が出た。 あーこれが死の合図か。 死んだかと思ったがまだ意識がある。 雪の斜面を落ちている。 なんだよ。もう一回痛い思い