目的論的に社会を計画しようとする設計主義(constructivism)の元祖として、ハイエクが批判したのがアリストテレスだ。その同時代に、徹底的に反アリストテレス的な人生を送ったのが、ディオゲネスである。 彼はアレクサンダー大王が面会に来たとき、桶の中から出ようとせず、「余に望むことはないか」というアレクサンダーの言葉に、「日影になるから、そこをどいてくれ」と言ったというエピソードで知られている。これはまったくの作り話ではなく、彼が王の権威を否定していたという事実を象徴するものだ。 ディオゲネスの著作は残っていないが、歴史的事実としてはっきりしているのは、彼(あるいは彼の父)が通貨を偽造して国外追放され、生涯ほとんど乞食同然の生活を送ったということだ。しかし彼の学識を慕って集まる人々が多く、彼は「キニク学派」の始祖とされる。キニクとは「野良犬」という意味で、英語のcynicの語源だ。