時間は過去から現在,未来へととめどなく流れていく。過去は変えられず,未来は決まっていない。そして私たちは現在を生きている──それが私たちの「時間」についての日常感覚だ。 だがそうした日常的な「時間」は,現代物理学には存在しない。物理の数式は「現在地」のない地図のようなもので,あなたが今いるのがどこかは教えてくれない。アインシュタインの相対性理論によれば,そもそも唯一かつ絶対的な「現在」というものはない。過去から未来にいたるあらゆる瞬間は,等しく実在している。 かつてニュートンは,唯一絶対の時計があると考えていた。世界はこの時計を共有しており,誰にとっても1分は1分。何が先に起き,何が後に起きたかも同じという前提に立っていた。 だが物理学が発展するにつれ,こうした前提はことごとく覆された。相対性理論によれば,物事の後先はしばしば確定せず,経過時間は重力によって変化する。時間というのは観測者に