有田 伸 死刑囚の朝は恐怖に満ちているという。近づいてくる刑務官の足音が、自らの独房の前で止まるかどうか。止まればその日のうちに刑が執行される可能性が高い。毎朝の恐怖は極度の不安と緊張をもたらし、ついには精神に異常をきたしてしまうこともあると聞く。 では、塀の外に暮らす私たちの毎日は、死刑囚のそれといったい何が異なるのだろうか。一見まったく異なるように思えるが、パスカルも指摘するように1、実はそれほど変わらない。死は、すべての人間に必ずやってくる。しかしそれがいつなのかは、容易にわからない。もちろんその確率は小さいが、事故や急病によって、今日突然命を終えてしまう可能性もないわけではない。それでも私たちの多くは、そのことの恐怖や、不安や緊張を強く感じることなく毎日を過ごしている。 結局のところ、死刑囚と私たちのもっとも大きな違いは、日々の生活のなかで「死」の可能性をどれほど強く意識させられる