著: 田中裕子 毎日帰ってくる街だからこそ、おいしくて敷居の低いお店があるとうれしい。住んだことのある人ならではの視点で、普段着でひとりでもかろやかに通える街の名店をご紹介します。 ◆◆◆ 2000年。椎名林檎が大ヒット曲『罪と罰』で「頬を刺す 朝の山手通り」と歌ったとき、鹿児島の実家すぐそばを走る国道3号線くらいしか知らなかったわたしは静かに撃ち抜かれた。「いったいどんなイケてる道なんだろう……!」とドキドキした。「東京の道」って、ちょうかっこいい。 そして時は流れ、上京して10年。三軒茶屋で見つけたマンションの内見へ向かう車中でハンドルを握る不動産屋さんから「茶沢通りって知ってます?」とたずねられたとき、首をかしげつつ忘れかけていたミーハー心がむくむくとよみがえった。 「三軒『茶』屋から下北『沢』へとつづく、歩いて30分弱の一本道なんですけどね。駅からマンションへは、この通りを歩いてい