著: 山田友美 「3カ月だけ、ここで働かせてください」 そう言って徳島県の神山町に移り住み、丸2年半が経った。 生まれは香川の西の端っこ。海と山が近く、田舎だけど不便すぎもしない、どこにでもある、退屈で穏やかな田舎のまち。 食べることは昔から好きだった。「食」は私を形成するアイデンティティの中で最も大きい部分を占めている。ただ、高校卒業後の進路を決める際、まだ純朴だった私は、「専門学校より大学入った方がよくね?」という高校の担任の言葉にすんなり従い、興味のあった製菓の専門学校には進まず関西にある大学に進学した。大学時代は京都を中心においしいものを食べ歩く時間が至福だった。 就職活動で友人たちが名だたる企業から華麗に内定をもらっていくなか感じた、迷いと焦り。飲食業界の会社から内定を得たが、なんだかしっくりせず辞退してしまった。どうしても、自分の手でつくったものを直接届け、目の前の人を喜ばせた