僕が迷子になったとき「死んだオヤジが連れて行ってしまった」なんてオカルトじみたことを言ったのは父である。迷子になったのは昭和52年師走、横浜駅。当時3歳。もっとも当事者の僕にその記憶はなく、ずっと後、中学生になってから母から聞かされたのだ。そのとき3歳の僕をなかなか見つけることが出来ず父と母は最悪の事態も覚悟したらしい。父は極めて楽観的で楽しい人なのだが、同時に諦めも早い人で、その前年に亡くなった祖父を持ち出して「オヤジが連れて行ってしまった」と母に話したらしい。 当時、父が祖父のことでキズつき疲れていたのは想像に難くない。祖父の遺体は海で見つかったと聞かされている。姿が見えなくなってから富山県高岡の海岸で見つかるまで一週間かかったとも。祖父は何も語らずに死んでしまった。いつだって肝心なことは言葉にされないまま終わる。そういうものなのだろう。僕が迷子になったのはその直後だ。 「オヤジが連れ