われわれの記憶の容量は無限ではなく、過去の一瞬一瞬における文脈と、それぞれの時点で潜在的に存在した選択肢を記憶していることは不可能である。過去を振り返るには、現在の地点で判明している帰結から遡って脈絡を見出し、筋道を立てていくしかない。歴史記述とは結局この合理化の作業だろう。 しかしそれによって、肝心なことを忘れてしまいがちである。それは、いつの時点でも、将来はわからなかった、という当たり前の事実である。歴史上のどの時点も、過去の数知れぬ経緯の上にあり、未来に無限の可能性を秘めている。すべての当事者が、どの可能性がより蓋然性が高いかを全知全能を挙げて判断し、その結果として一つの現実が生じる。あとから見れば必然的で、定まっているように見える道筋も、その時点では誰も確かに予想できなかったのである。分からないからこそ、情勢を判断し将来を見通す営為に意味がある。その緊張感と臨場感こそ、本書で示した
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