子供の頃から「坊ちゃま」「坊ちゃま」と言われて育った。 それは自分が病院の跡取り坊っちゃんだったからである。 しわくちゃな手をした人たちが自分を取り囲んで、 「手がきれいだ」とか「賢そうだ」とかいう。 自分だけきれいな恰好をして申し訳ないような、浮いているような、居心地の悪さが常にあった。 とはいえ期待されていたかというと全く逆で、学究肌の父親は、「お前は医者になるな」が口癖であった。 自分も弁護士になるつもりでいたから、そういう点では父親とは全くぶつかることもなく、仲良く過ごしていた。 「東大理Ⅲしか許さない」とか言っていたとぼけた祖父も中学の時に亡くなったので、特になんのプレッシャーもなく育った。 高校3年のとき、病気になって手術を受けた。 都内の大きな病院だが、執刀医は父親の親友であった。 受験前なのに勉強道具を持っていかなかったのは、どうせ病気をしているのに勉強したって効率が悪いか
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