最終回 知られざるビジネスマナーの歴史 上司に「ご苦労さま」は失礼なのか? ある日、人事課長の浦島太郎さんが社長室へ入っていくと、社長の桑原さんはモーニングを着込んでいた。 「おや、今日は何かあるんですか?」 「市会議員の山田君の息子の仲人をたのまれて、今日が結婚式なんだ」 「そりゃア御苦労さまです」 (源氏鶏太『三等重役』) いま現役のサラリーマンが読んだら、「おや?」と目をとめる個所です。みなさんはきっと新人の頃、部下が上司に向かって「ご苦労さま」とねぎらいの言葉をかけるのは失礼なので、「お疲れさま」といいましょう、とマナー教育を受けたことでしょう。 でも『三等重役』が書かれた昭和二六(一九五一)年の時点では、課長が社長を「ご苦労さま」とねぎらうのは普通で、マナー違反という考えはなかったのです。 それを裏づける調査もあります。平成一七(二〇〇五)年に文化庁が実施した世論調査で目上の人へ