ここ10年ほど、毎年のようにノーベル文学賞の噂がささやかれる村上春樹だが、意外というべきか芥川賞は受賞していない。デビュー作の「風の歌を聴け」が第81回(1979年上半期)、続いて「1973年のピンボール」が第83回(1980年上半期)の芥川賞候補にあがったものの、いずれも選から漏れている。 そんな村上について「もう何回か候補になっていればとったのではないか」と語るのは作家の奥泉光(「石の来歴」で1993年下半期の第110回芥川賞受賞)だ。何回か候補になればこの人は何をやりたいかが見えてくるから、というのがその理由である。実際、芥川賞選考委員(当時)の一人の大江健三郎は、その選評を読むと当初は村上の作品に否定的であったものの、2作目では評価を示している。 ただ、村上が芥川賞候補になったのはこの2回きり。3作目の『羊をめぐる冒険』は、芥川賞の対象はあくまで短編なので候補にあがらなかったのだろ