お江戸の町をとびきり元気な女の子が駆け回る。彼女は猟師、追うのは伏と呼ばれる凶悪な犬人間。桜庭一樹さんの『伏 贋作・里見八犬伝』は、以前から興味があったという『南総里見八犬伝』を大胆にアレンジした痛快エンターテインメント大作。その執筆の裏側にはどんな創意工夫があったのだろうか。 さまざまな要素を持った物語に 江戸時代後期、滝沢(曲亭)馬琴によって書かれた大長編伝奇小説『南総里見八犬伝』。室町時代、安房国の里見領を治める父親の軽口が原因で、犬の八房と山にこもった伏姫。彼女の身体から八つの大玉が飛び散り、それがやがて八犬士の登場へとつながっていく。膨大な巻数から成るこの冒険物語をベースにしたのが、『伏 贋作・里見八犬伝』である。 「前から興味があって、いつか書いてみたいと思っていました。原体験は中学生くらいの頃に観た角川映画の『里見八犬伝』ですが、あの原作は鎌田敏夫さん。その後で長い原典を読ん