霊峰 エーシルは最後に7年間すごした部屋を一瞥《いちべつ》する。従者と視線があうと、彼が唇を軽く動かして「愛しています」という文字を形造った。その声なき言葉に、どんな感情がわくというのか。 彼は白いコートを抱えもって、エーシルの肩にかけた。 「必要なかろう」と、フロジが目を細める。 「今朝は寒さが厳しいので、あの地につくまでは……」 「炎の巫女は寒さを感じない。が、まあ、よかろう」 袖に腕をとおさずコートをはおったまま、彼女は城の入り口まで歩く。その後ろを人々がつき従う。 外への扉が開いた。 11歳で囚われてから7年。はじめて城の外へ歩みでた。 一面に白い粉が積もった大地。彼女が歩くのに合わせて、赤い絨毯が従者によって敷かれ馬車までの道を示す。 エーシルは裸足でその道をあゆむ。 彼女が乗る馬車には宰相フロジと警護の男が同乗した。フロジが杖で御者に合図すると、馬車の車輪が回転した。 その後を