今月の『群像』9月号に載った、加藤典洋の未発表原稿が話題である。1995年の日本で起きた「敗戦後論」の炎上のせいで、米国の学会でも自分が極右扱いされてることを知った加藤が、抗議のために英語で執筆したものだ。 あまりにも本人の主張と乖離した虚像が横行する様子を喩えて「不思議の国のカトウ・ノリヒロ」と題した草稿が、この度訳されたのだが、その内容ではなく、読んでいまSNSで持ち上げる人たちの態度が、面白くない。 去年出した本でも描いたとおり、加藤は「敗戦後論」にともなうキャンセルを乗り越えて成熟し、文藝評論の大家として認められる。その後の日本で「加藤さんって別に、悪い人じゃなかったよね」と言うのは、きわめて安全な行為である。 が、原稿が明かすのは、米国の日本研究の世界ではカトウ・ノリヒロを貶しておくのが、同じように "きわめて安全に" 学会でウケるためのマナーだったという事実だ。そこに気づけない

