女性を連れ去り、強引に結婚させる「誘拐婚」。中央アジアの国、キルギスで続く驚きの慣習を、4カ月かけて取材した。 文・写真=林 典子 「お願いだから車を止めて! ドライブに誘い出しておいて、私を誘拐するなんて。嘘をついたのね、最低な男!」 女性が誘拐されたことに気づいたのは、キルギス中部の都市ナルインの外れにある大峡谷に差しかかったときだった。迎えに来た男の車に乗り込んでから、20分が経過していた。 車の速度がどんどん上がる。日はすでに沈んでいた。北西へしばらく走り、見えてきたのは、標高2000メートルの果てしない放牧地。ときどきすれ違う羊飼いは、こちらの状況など知る由もないだろう。「元いたところに帰して!」と彼女が叫んだ。 警察も裁判官も助けてくれない 約540万人が暮らすキルギスで、人口の7割を占めるクルグズ人。その村社会では、誘拐婚が「アラ・カチュー」と呼ばれ、慣習として受け入れられて