今週も引き続き「梶井基次郎を歩く」を掲載します。今週は「梶井基次郎の京都を歩く」です。大正8年の第三高等学校入学から大正13年の卒業までを歩きます。 <「檸檬(れもん)」> 梶井基次郎の初の作品集「檸檬」が発刊されたのが昭和6年5月15日でした。お金が余りなかったのでしょう、表紙のデザインは非常にシンプルで、題名と筆者名だけです。「えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた。焦躁と言おうか、嫌悪と言おうか――酒を飲んだあとに宿酔があるように、酒を毎日飲んでいると宿酔に相当した時期がやって来る。それが来たのだ。これはちょっといけなかった。結果した肺尖カタルや神経衰弱がいけないのではない。また背を焼くような借金などがいけないのではない。いけないのはその不吉な塊だ。以前私を喜ばせたどんな美しい音楽も、どんな美しい詩の一節も辛抱がならなくなった。蓄音器を聴かせてもらいにわざわざ出かけて行