☆喪われた化合物の名誉のために(1)~DDT~ 化学者の端くれたる筆者にとって悲しいことに、近年どうにも化学のイメージはよくありません。環境破壊の先棒担ぎのような扱いを受け、「化学」「合成」と名のつく物はそれだけで悪者のように見られます。化学のもたらした恩恵は大きいのに、なぜか大きく取り上げられるのは害毒の方だけ、という感もなきにしもあらずです。今回からマスコミによく登場する物質をいくつか取り上げ、その光と影を検証してみることにしましょう。1回目は悪玉化学物質の最右翼、DDTです。 DDTという名称は、ジクロロジフェニルトリクロロエタンの頭文字を取ったものです(ただし現在の命名ルールでは、1,1,1-トリクロロ-2,2-ビス(4-クロロフェニル)エタンという名称になります)。DDTが最初に合成されたのは1874年のことですが、スイスのミュラーによってその強力な殺虫効果が発見されたのは193