南北会談の舞台として設定されたホテル・ネオ・オークラの「麻生の間」に各地からメディア関係者が詰めかけていた。会談を終えた南北の代表者たちがここで会見を行う予定だったのだ。1年と2週間前の北日本連邦の独立宣言、および宣戦布告ぶりに全世界の目がこの極東の島国に集まろとしていた――江戸幕府の時代から中央政権によって治められてきた列島のなかに新しい国家が生まれ、承認された瞬間を目撃しようと。世界中から集まった記者、ジャーナリストたちは歴史的な事件を目前に控え、落ち着かない様子で各々が用意したカメラをいじっていた。 しかし、彼らの期待をよそに冷や汗をかき続けていたのは、日本国首相、木村拓哉だった――北日本からやってくるはずの7人の県知事たちが姿を見せないのだ。本来ならば、7人の県知事たちを載せたVIP用のリムジンがホテル・ネオ・オークラのエントランスに乗り付けるはずの時間からとうに3時間が経過してい