黄昏のなか一人の男が鳥取砂丘をなぞるように走る旧国道9号線のガードレールに寄りかかっている。男はアスファルトで乱雑なギンガムチェックを刻まれた車道に向かって忌々しさを振り払うかのように唾を吐いた。「くそっ」。降り立ったばかりの鳥取の日本海から吹き付ける風は男の予想より穏やかで、それが男の苛立ちをいくぶん和らげてはいた。男は己の愚かな行為を棚上げにして、ふりかかった不幸を呪い続けていた。「なぜスターだった俺が…」「なぜ俺だけが…」と。 現在、男は非公式ではあるが北の軍籍に身を置いている。そこで世の中から見棄てられた男に与えられた指令は自衛隊のトップシークレット「クローソー」の破壊。戦争中に何千、いや何万の血で塗られた引き換え券に記されたクローソーのパルスは鳥取市内の女子高生西脇綾香のそれと完全に一致していた。男の目標は西脇綾香の破壊となった。24時間前。男の電脳にクローソーの情報が送られてき