横綱北の湖は、本当にいい相撲取りだった。現役時代の彼は、背中が反り気味になることと、相対的に手が短いので、まわしを取るのがそう速くないし、時に上手を切られる欠点があったが、これらを補って余りある、寄りの力と相撲の速さを持った取り口で、相撲の王道を行く、最強の横綱の一人だった。特に、外国人力士のはしりで圧倒的な体格と当たりの破壊力を持った高見山の立ち会いを、まともに受けて、組止めて、寄り切り、あるいは、投げ捨てる相撲には、横綱の責任感と相撲界最高峰の力が表現されていた。 キャラクター的にはヒール(悪役・憎まれ役)であったが、私は、当時、北の湖の素質に窮屈さが無い、文句のない強さが、好きで応援していた。 彼は、北海道の有珠山の麓の出身であった。人格的なエピソードは、そう多くは伝わっていないが、負けず嫌いで気が強いのは当然としても、単純で素朴な人柄だと思っていた。彼が乗っていた車がスピード違反で