社会人になったばかりの頃。 よく晴れた午後。日当たりのいい1Kのアパート。ベッドにもたれかかって、母と電話をしていた。 その頃の母は電話をするたびに泣いていた。 「ごめんね。お母さんのせいで。あたしがもっと違っていたら、あなたはこんな風にならなかったのに。ほら、あの時だって。もう一度あなたを育て直したい。ごめんね。ごめんね」 ああ、まだ私の役目は終わらないんだなあと思った。 大丈夫だよ、お母さん。私そんなこと思ってないよ。泣かないで。私こそごめんね。 ーーー 子供の頃からいつもそうだった。 泣いている母を慰めるのが私の役割だった。 お母さん、大丈夫だよ。私は味方だよ。本当にひどいよね。お母さんは何も間違ってないよ。大丈夫。大丈夫だから。 二人だけの夕方のキッチンで。家を飛び出した夜の公園で。置き去りにされたどこかの街の道端で。帰省中、深夜のリビングで。 でも、それは仕方のないことだった。