スティーブ・ジョブズ氏が亡くなって思うのは、彼が徹底的な「顧客志向」だったことと、それによって成し遂げた成果の大きさだ。彼は徹底的に顧客のことを――それのみを考え、偉大な製品をいくつも作り、アップルを世界有数の企業へと押し上げた。しかしこう言うと、異論を唱える人も多いだろう。曰く「ジョブズは自分が作りたいものを作っていたではないか」「自分の感性に従えと言っていたではないか」。しかしそれは誤解である。ジョブズ氏は、自分が「作りたいもの」を作っていたのではない。自分が「ほしいもの」を作っていたのだ。つまり、制作者としての立場ではなく、顧客の立場で考えていたのである。そして、顧客としての自分に、制作者としての自分を完全に隷属させていた。彼について書かれた本や記事のどこを読んでも、仕事人として楽しそうな姿は伝わってこない。それとは逆に、厳しく、つらく、心楽しまず、しかしそれでも「やらなければならな