女性は周囲を見回す事も無く、肩に掛けたトートバッグを時折掛け直しながら真っ直ぐ前を向いて歩いている。そのまま進むと、環八通りに出る筈だった。女性の後ろ姿を見据えながら、嶋野は頭脳をフル回転させた。 仮にこのまま環八に出たとして、考えられるルートは路線バスに乗るかタクシーを拾う、さもなければ徒歩で高井戸駅まで行って井の頭線に乗るか、の三つ。いずれにせよ、このまま環八まで行かせてしまってはチャンスが消える。 頭の中で決断を下してからの嶋野の行動は迅速だった。少しアクセルを踏んでスピードを上げ、女性を五、六メートル程追い越してから車を停め、運転席を出て女性に声をかけた。 「あの、すみま
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