二月も後半に差し掛かった頃、夜の「大森ボクシングジム」では、友永と二宮が久々のマスボクシングを行っていた。三枝はエプロンサイドでマットに両手を突き、厳しい目でふたりの動きを注視していた。 「ホラ祐次! もっと足動かせ!」 リング内では専ら二宮が得意のフリッカージャブを連打しながらサークリングし、友永が左右のフックを出しつつ追う展開だった。三枝の横から、井端も声をかける。 「ニノさん! ジャブ走ってますよ!」 二宮は時折笑顔を浮かべながら、左手一本で友永をコントロールにかかった。 「ラスト一分!」 三枝が号令すると、二宮のテンポが更に上がった。ステップも速くなり、時々シャッフルが入る様になった。一方の友永はウィービングしつつ距離を詰めようと試みるが、二宮のジャブの壁を破れずにいた。 「ラスト三十!」 また三枝が大声で告げる。すると、それまで遮二無二前進していた友永が、急に足を止めて一歩バック