母は97歳で逝った。私の大学進学にあたり、乗り気でなかった父を「勉強したいという子は珍しいのだから、行かせてやってください」と説得してくれた。 死ぬ半年前くらいから、軽い痴呆が出てきた。朝食をしていると「今日は何日でえなあ?」と何度も聞くことがあった。「さっきも言ったでしょう。17日」「何曜日けえなあ?」「水曜日」「そうか。そんなら今日は休みで(学校は)行かんでもええなあ」「水曜日だから休みと違う」「いいや、17日なら休みのはずだ。東郷平八郎さんが日本海海戦でロシアの海軍と戦って勝ちんさった日(海軍記念日)で休みのはずだ」と言って譲らない。 私は朝食を終えるとすぐ調べた。間違いなく日本海軍がバルチック艦隊を破った日だ。恥ずかしいことだが、海軍記念日を知らなかったのである。母はついさっき言ったことは覚えていないのに、何十年も前のことはしっかり覚えているのだなあ…と痛く感心した。 母は毎朝食前