「この御返歌はどうなさるだろう、 またお手紙もあったでしょうが お答えにならないではいけないでしょう」 などと源氏は言ってもいたが、 女房たちはお手紙だけは源氏に見せることをしなかった。 宮は気分がおすぐれにならないで、 御返歌をしようとされないのを、 「それではあまりに失礼で、 もったいないことでございます」 こんなことを言って、 女房たちが返事をお書かせしようと苦心している様子を知ると、 源氏は、 「むろんお返事をなさらないではいけません。 ちょっとだけでよいのですからお書きなさい」 と言った。 源氏にそう言われることが 斎宮にはまたお恥ずかしくてならないのであった。 昔を思い出して御覧になると、 艶に美しい帝《みかど》が別れを惜しんでお泣きになるのを、 少女心《おとめごころ》に おいたわしくお思いになったことも目の前に浮かんできた。 同時に、母君のことも思われてお悲しいのであった。