「仮想算術」とは何なのかを時々ひとに聞かれる。これは僕の造語だが、ふつうは「仮想計算」というところだろう。そこをあえて「算術」といっているのは、算術arithmeticという言葉には、もともと「数え上げる知=技術(テクネー)」という古い意味があるからだ。したがって「仮想算術」というのは、平たく言えば“別の数え方”のことである。 たとえば、近代の国家があるタイプの「数え上げの技術」のうえに成り立っていることは明らかである。それは具体的には、統計調査(センサス)であり、世論調査であり、また投票システムである。イアン・ハッキングの言い方では、それは「偶然を飼い慣らす」ための諸々の装置だと表現される。ひとびとは、日常的にはさまざまな偶然や不確定性に満たされて存在しているようにみえる。しかし、ある仕方の「算術」のもとでは、その偶然性は偶然ではなくなり、たんに統計上の事実になる。むろん、その統計化に