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ブックマーク / hiko1985.hatenablog.com (25)

  • 坂元裕二『大豆田とわ子と三人の元夫』2話 - 青春ゾンビ

    『大豆田とわ子と三人の元夫』というドラマは、ロケーション・インテリア・衣装・音楽・カメラワーク・・・どの要素をとっても、徹底してオシャレな質感に包まれている。画面だけ見れば、さながらトレンディードラマのようなリッチさであるのだけど、描かれているのは、シャワーヘッドに頭をぶつけてしまう、うどんの丼にイヤフォンを落とす、ソファーにカフェオレを零してしまう、些細な誤解でパトカー連行されてしまう・・・といったように実に卑小な人間の営みだ。これまでの坂元裕二作品の登場人物と同様に、”社会の理“のようなものからはみ出してしまう人々の魂は健在のようだ。今話の主役である中村慎森(岡田将生)の理屈っぽく捻くれて、憎まれ口ばかり叩くそのありようは、まさに坂元裕二の描いてきたキャラクターの典型と言えよう。特に、携帯で動物の画像を眺める所作などからも、『最高の離婚』(2013)の主人公である濱崎光夫(瑛太)の魂の

    坂元裕二『大豆田とわ子と三人の元夫』2話 - 青春ゾンビ
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    MINi 2021/04/27
  • 坂元裕二『大豆田とわ子と三人の元夫』1話 - 青春ゾンビ

    <A面> オレンジ色の上下のジャージを身に纏った大豆田とわ子(松たか子)が、オレンジ色の布で囲われた公園を歩いている。このはじまりが象徴的なのだけど、この『大豆田とわ子と三人の元夫』というドラマにはあまりにも“オレンジ”に満ちているのだ。大豆田とわ子が入店するお洒落なパン屋の軒先、大豆田とわ子の住む部屋のカーテンとソファーと照明、大豆田とわ子が拾うパスタ、大豆田とわ子が出席した従兄弟の結婚式会場の照明、大豆田とわ子の娘が飲むオレンジジュース、大豆田とわ子の3番目の夫の髪色、2番目の夫の着るアウターの切り返し、1番目の夫の名前の響き(ハッサク*1)、大豆田とわ子の履くサンダル、大豆田とわ子の持つバッグ、大豆田とわ子の同僚の洋服、シロクマハウジングのオフィスの証明、ミニチュアの家の屋根、大豆田とわ子のiPhoneの背景トーン、大豆田とわ子が焦がれるカレーパン、大豆田とわ子の履く、大豆田とわ子

    坂元裕二『大豆田とわ子と三人の元夫』1話 - 青春ゾンビ
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    MINi 2021/04/19
  • オードリー若林正恭の結婚に寄せて - 青春ゾンビ

    オードリー若林正恭が結婚。それはもう、かなり大袈裟に動揺してしまったのである。ナイーヴであることを唯一のアイデンティティとして、大人への一歩を踏み出せず、”青春ゾンビ”なんて造語と戯れながらダラダラと思春期を彷徨っている。そんな風にして自意識を拗らせたこの国のヤングアダルトの約7割が(当社調べ)、若林正恭の生き様に依存してしまっている。人からすれば迷惑な話である。しかし、彼の自意識のあり方、その変化を、自分の現在地と照らし合わせることで、これからの生き方の指針としていたのだ。であるから、社会人大学人見知り学部卒業見込みの私たちは、『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』『ナナメの夕暮れ』を読みながら、自意識のあり方を少しずつアップデートしてきたつもりだ。それでも、41歳の若林正恭が深夜の公園でバスケットボールに興じている姿に、「私たちはまだ大丈夫だ」とどこか安心していたところがある。

    オードリー若林正恭の結婚に寄せて - 青春ゾンビ
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    MINi 2019/12/02
  • 最近のこと(2019/04/01〜) - 青春ゾンビ

    10連休ですね。もちろんうれしいのだけども、この"変わっていってしまう"感覚に精神が疲弊してしまっている。Robag WruhmeというドイツのテクノDJの「Venq Tolep」という曲の美しさに心を慰められています。平成から令和のまたぎのお祭り騒ぎにも、なんだかすごく寂しくなってしまった(SMAPもいないし)。令和になる瞬間は、テレビで爆笑問題の太田光の「れいわー」という叫び声を聞いた。実にバカバカしくて、どうでもいい感傷を無化してくれました。どうせなら平成について振り返ろうと思ったけども、膨大過ぎるというか、それはもうほとんど「わたしのすべて」であるということに気づいた。それでもノスタルジックな気持ちで、ポップカルチャー原体験を掘り返してみると、バーコードバトラーⅡとミニ四駆について辿り着いた。 平成のポップカルチャー個人史を振り返った時、『バーコードバドラーⅡ』が最初にある。機械に

    最近のこと(2019/04/01〜) - 青春ゾンビ
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    MINi 2019/05/03
  • プロフェッショナル仕事の流儀「 生きづらい、あなたへ~脚本家・坂元裕二~」 - 青春ゾンビ

    「私 この人のこと好き 目キラキラ」みたいなのは そこには当はない気がするんですよね バスの帰りで雑談をして バスの車中で「今日は風が強いね」とか 「前のおじさん寝ているね」「うとうとしているね」とか そんな話をしながら 「じゃあね」って帰って行って 家に着いて 一人でテレビでも見ようかなって思ったけどテレビを消して こうやって紙を折りたたんでいるときに 「ああ 私 あの人のこと好きなのかもな」って気が付くのであって 小さい積み重ねで 人間っていうのは描かれるものだから 僕にとっては大きな物語よりも 小さい仕草で描かれている人物をテレビで見るほうが とても刺激的だなって思うんですよ 番組で発されたこの言葉に、坂元裕二の書くテレビドラマの魅力が端的に言いまとめられている。何の意味も、何の価値もないように見えることに、“当のこと”は詰まっている。それを教えてくれるのが坂元作品だ。このドキュ

    プロフェッショナル仕事の流儀「 生きづらい、あなたへ~脚本家・坂元裕二~」 - 青春ゾンビ
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    MINi 2018/11/21
  • 坂元裕二『anone』5話 - 青春ゾンビ

    とうとう周回遅れである。つい不満のほうに筆が走ってしまうので、何度も書き直してしまうのだ。たとえば、序盤で繰り広げられた「すれ違いコント」に、ナレーションによる状況説明が挿入されていたのには、たまらなく暗澹たる想いに駆られた。"すれ違っていますよ"と明け透けに説明してしまうことで、あの場で巻き起こるズレのおかしみは半減してしまう。*1冒頭のプレイバックしかり、ここはもうプロデューサーに腹を括って欲しい。 何もできなくていいの その人を想うだけでいいの その人を想いながら、ここにいなさい 「危篤状態の彦星の回復を願い、病院の前に一晩中立ち続ける」という描写にも首を捻ってしまった。祈りが通じる。その感動はわかるのだが、あまりにもスポ根でベタではないだろうか。危篤の彦星(清水尋也)を置いて、BMWに乗って1年前から予約していたレストランへと事へと向かう家族を、責めるような描写もいささか息苦しい

    坂元裕二『anone』5話 - 青春ゾンビ
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    MINi 2018/02/19
  • 坂元裕二『anone』4話 - 青春ゾンビ

    私の名前はアオバ 苗字はない この世に生まれてこなかったからだ 幽霊っていうのとは少し違うけど まぁ そう思ってもらえるのが一番手っ取り早い いきなりの”幽霊”の登場である。低視聴率のテコ入れとして、急遽挿入されたであろう「3話までのダイジェスト」という配慮を、台無し *1 にするような突拍子もない導入。「こんな人いるわけない」「こんな職場あるわけない」「こんな展開ありえない」というように、昨今のテレビドラマの視聴者はこれまで以上に、”リアリティ”や「あるある」に近い共感を求める傾向にあるように思う。そんな中において、伏線なしの幽霊は、どう考えてもそっぽを向かれてしまうのは自明。しかも、幽霊は冒頭のように、我々に向かって話かけてくる確固たる存在なのだ。高視聴率は望めないだろう。しかし、そのような語り方でなければ紡げないものというのがあって、それは世界の在り様すら変革させてしまうような力を持

    坂元裕二『anone』4話 - 青春ゾンビ
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    MINi 2018/02/07
  • 坂元裕二『anone』3話 - 青春ゾンビ

    突然の拳銃の介入、3話はこれまで以上にダーティーで穏やかではない。しかし、シリアス一辺倒というのでなく、細部のやりとりはコミカルさで彩られてもいる。川瀬陽太が演じる西海隼人という複雑な人間の存在が、物語を混乱させているのだ。モデルガンを改造した拳銃で、上司を撃ち殺した凶悪な犯人。であるはずなのに、3話を通して印象に残るのはその残虐さよりも、人間としての”可愛げ”だ。犯罪行為の真っただ中であるにも関わらず、嬉々として銃についての知識を語り、子供番組に癒され、「だって可哀想じゃん」と迷いフェレットを飼い主の元に届けてあげる。人質であるはずの持(阿部サダヲ)との会話は、一丁の拳銃さえなければ、幼馴染との他愛のないそれにしか聞こえない。この西海という男の在り方を、青羽(小林聡美)の言葉通り「頭が悪いだけ」と切り捨ててしまうことも可能だが、この善/悪のスイッチのシームレスな切り替えこそ、”人間その

    坂元裕二『anone』3話 - 青春ゾンビ
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    MINi 2018/01/29
  • 坂元裕二『anone』2話 - 青春ゾンビ

    <社会の理からはみ出す> 1話のエントリーで孤児とも天使とも形容した今作の登場人物たちは、つまりは社会というシステムからの追放者である。ネグレクトされ”家なき子”としてネットカフェで寝泊まりする辻沢ハリカ(広瀬すず)。フランチャイズチェーンに加盟した結果、父から受け継いだ土地を企業に奪われてしまう持舵(阿部サダヲ)。丸の内の商社に努めるキャリアウーマンであったが、男性社会において出世街道を外された青羽るい子(小林聡美)。そして、血の繋がりを理由に家族という共同体を除外された林田亜乃音(田中裕子)。誰もが社会から居場所を奪われ、傷ついている。スーパーの3割引されたパックの総菜を、椅子に座ることもなく立ったまま発泡酒で胃に流し込む亜乃音の姿は、花房(火野正平)が言うところの、”人様の秘めた哀しみ”というのを体現している。だが同時に、そういった社会性から逸脱したふるまいの放つ生々しさが、妙に胸

    坂元裕二『anone』2話 - 青春ゾンビ
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    MINi 2018/01/20
  • 坂元裕二『anone』1話 - 青春ゾンビ

    坂元裕二の新作ドラマ『anone』の放送がついに開始された。ジャンルレスゆえに、現段階ではまだまだ漠然とした印象だが、イメージを織り重ね、ストーリーを形作っていくその筆致はやはり郡を抜いている。1話における白眉は、偽札を巡る歪なカーチェイスで3つの群像劇が交差していくスペクタクルだろうか。その果てに、「が脱げてしまう」という情けないアクションで人物たちがひっそり結びついてしまうという描き方には、「坂元作品を観ている」という興奮を覚えた。序盤で「名言っていい加減ですもんね」と自虐的に言及しているにも関わらず、やっぱり坂元裕二のドラマは名言でまとめられてしまう。坂元裕二の名言砲、坂元裕二ドラマは名言の癖がすごい・・・気持ちはわからないでもない。「お金じゃ買えないものもあるけど、お金があったら辛いことは減らせるの」も「大丈夫は2回言ったら大丈夫じゃない」も確かに良いのだけども、やはりその真骨頂

    坂元裕二『anone』1話 - 青春ゾンビ
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    MINi 2018/01/12
  • 新しい地図『72時間ホンネテレビ』 - 青春ゾンビ

    毎日みんなで口にするのは「ああ あいつも来てればなぁ」って 当に僕も同感だよ それだけが残念でしょうがないよ スチャダラパー「彼方からの手紙」 そこに”いない”と感じるってことは、実はむちゃくちゃ”いる”ということなのだ。『72時間ホンネテレビ』は3人としてスタートを切る番組ではなく、どこまでも5(6)人を諦めない、という意志のように思えた。ちなみに、上に引用したスチャダラパーの「彼方からの手紙」という曲はこう締めくくられる。 ぼくはすべてを把握した ここにこなけりゃぼくは一生 わからずじまいで過ごしていたよ あんがい桃源郷なんてのは ここのことかなってちょっと思った 君もはやく来たらと思う それだけ書いて筆を置く まさに桃源郷のような3日間だった。もちろん、72時間の内、8割方は既存のテレビ番組の冴えない企画の焼き増しで、「地上波放送じゃできない」という謳い文句は決して適切ではない(地

    新しい地図『72時間ホンネテレビ』 - 青春ゾンビ
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    MINi 2017/11/06
  • ラジオ「ハライチ岩井 フリートーク集」の凄味 - 青春ゾンビ

    突然ですが、2017年にリリースされた音源のベスト1が決定いたしました。「ハライチ岩井 フリートーク集」である。「ハライチのラジオがおもしろい」というのは何度も目にする文言でしたが、すでに放送が開始されているラジオ番組を新規で聞き始めるというのは、かなりのリテラシーが求められる。ラジオ番組の特有のグルーヴというか、ルールのようなものを飲みこまねばならないからだ。その点において、この「ハライチ岩井 フリートーク集」は、まさに導入にうってつけなのである。番組内の岩井フリートークのみが編集され、トークをトラックで区切りタイトルで管理、更にはトップ画にタイムスケジュールまで記載してくれている。まるで1枚のアルバムを聞くようにして楽しめる。 1曲目の「電車」を試聴さえすれば、それ以降のトラックに耳をふさぐのは難しいだろう。岩井の淀みのない流暢な喋りとその声質の良さ、巧みな情景描写とオチに向けての緻密

    ラジオ「ハライチ岩井 フリートーク集」の凄味 - 青春ゾンビ
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    MINi 2017/10/31
  • 坂元裕二×是枝裕和トークショー『ドラマの神様は細部に宿る』 - 青春ゾンビ

    坂元裕二と是枝裕和、この字面の並び!!何度だって反芻したい。坂元裕二×是枝裕和トークショー『ドラマの神様は細部に宿る』に参加してきたのだ。”テレビドラマ”を語るにおいて、この上ない組み合わせを実現させた早稲田大学演劇博物館に溢れんばかりの感謝を。当初は300人収容の会場での開催予定だったのだが、予約が殺到し、急遽1000人収容の大隈記念講堂に会場を変更したわけですが、それでも収まりきらない需要。当日は中継映像を流す会場まで設置されていた。泣く泣く予約を諦めたという方もたくさんいらっしゃると思いますので、この日、会場を包んでいた穏やかながらも確かな興奮を伴なった”熱”のようなものを少しでもレポートできたらと。 トークショーは互いの作品の好きなシーンをスクリーンで流し、気になるポイントを質問するというシンプルなスタイルで進行した。クリエイター同士の質疑は非常に示唆に富み、刺激的でありました。ま

    坂元裕二×是枝裕和トークショー『ドラマの神様は細部に宿る』 - 青春ゾンビ
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    MINi 2017/07/03
  • 星野源さん、”人見知り”を斬る - 青春ゾンビ

    人見知りだって言っちゃうことは、相手に僕人見知りなんで、なんか気を使って下さいって言ってるのと一緒だなって。それってすごい失礼だなと思って、失礼だし、何様なんだって思ったんです、自分が。だから、嫌われてもいいやって段々思えるようになってきて 星野源さん、テレビ放送で”人見知り”を斬る。2年くらい前にも雑誌で同様のことを書いていていた気がする。その時は確かもっと過激で、「人見知りなんです」と相手に言うのは、傷つかない為の予防線でしかない、オレもやめたから、早くお前らもやめろ、というような論調だった。今回は「これはあくまで僕の場合はですよ」と前置きをし、あくまで批判する対象を過去の”自分”に定めているのだけど、それこそただの予防線であり、建前でしかない。心は、全国の”人見知り”に対して、「お前ら考え改めろよ」と言ってくださっているのだ。黙ってはいられないではないか。 「人見知りなんです」とい

    星野源さん、”人見知り”を斬る - 青春ゾンビ
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    MINi 2017/05/12
  • 坂元裕二『カルテット』最終話 - 青春ゾンビ

    『カルテット』がついに終わってしまった。なんたる幸福な3ヵ月であったことだろうか。坂元裕二の最高傑作か否かという判断は観終えたばかりなので留保するが、間違いなく『それでも、生きてゆく』(2011)、『最高の離婚』(2013)という燦然と輝くマスターピースに肩を並べる作品の誕生である。坂元裕二への強烈な愛を叫びながらも、作家としてのピークはもう過ぎてしまったのではないだろうか、と密かに案じていた自身を恥じ、そして喜びたい。『カルテット』ではこれまでの得意技を更に研ぎ澄まし、時代の空気に適応しながら、新しい領域に果敢に突入している。坂元裕二はまだまだ我々の心をおおいに揺らし続けてくれることだろう。さて、最終話ということですが、物語としてのピークは9話で終えていて、まさにエピローグという印象。これまで鳴らしてきたいくつかのテーマを丁寧に再確認しながらも、”永遠に終わらない”という稀有な感覚を画面

    坂元裕二『カルテット』最終話 - 青春ゾンビ
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    MINi 2017/03/23
  • 坂元裕二『カルテット』9話 - 青春ゾンビ

    家森:別府くん、この映画いつになったら面白くなるの? 真紀:宇宙・・・出てこないですね すずめ:幽霊はどこにいるんですか? 別府:だから そういうのを楽しむ映画なんです 『スターシップ 対 ゴースト』という、2話で登場した『人魚 対 半魚人』に劣らぬB級感を醸し出す映画を観ながらの4人の会話。まさにこの『カルテット』という作品についての自己言及のようである。面白くない人には当にずっと面白くないだろうな。アンチドラマで、登場人物はウダウダと動かず、物語展開はどこまでも不親切で、毎回フェイクな予告で視聴者を惑わしたりもする。8話のラストであんなにも視聴者を揺さぶった「真紀は早乙女真紀ではない」というサスペンスも、開始数分であっという間に処理されてしまう。「誰でもない女ですかね」とまで言われていた真紀の名も”ヤマモトアキコ”とあっさり明かされ、物の早乙女真紀はしっかり生きていて、あまつさえ

    坂元裕二『カルテット』9話 - 青春ゾンビ
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    MINi 2017/03/16
  • 坂元裕二『カルテット』8話 - 青春ゾンビ

    またしても心震えるような傑作回である。8話に到達してもなお、坂元裕二のペンが絶好調だ。例えば、「お義母さん!(駆け寄って)野沢菜ふりかけ」というギャグのようなシークエンス1つとっても、真紀(松たか子)にハグを期待してかわされる鏡子(もたいまさこ)に、同じく別れ際にハグをすかされた幹生(宮藤官九郎)の顔がチラつく。こういった些細な書き込みによって、鏡子というキャラクターに「あぁ彼女は幹生の母であるのだな」という実感が宿るのだ。こういった人間の小さな営みを積み重ねることのできる細部の充足こそが、坂元裕二の真骨頂だろう。穴釣り、冷え冷えの便座、穴の空いたストッキングと、今話においても”ドーナッツホール”のモチーフが活き活きと登場し、物語に華を添える。ナポリタンとブラウス、ナポリタンと粉チーズ、と”赤”と”白”の混ざりあいが提示されたり、すずめ(満島ひかり)にチェロを教えたという”白い髭のおじいさ

    坂元裕二『カルテット』8話 - 青春ゾンビ
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    MINi 2017/03/09
  • 坂元裕二『カルテット』7話 - 青春ゾンビ

    素晴らしい!!6話ラストの怒涛の急展開をして、やはり『ファーゴ』なのか!?と盛り上がっているふりをしながらも、満島ひかりの「だいたい7話くらいで坂元さんは・・・ちょっとねぇ」という愚痴に共鳴している自分がいました。しかし、7話においても決しておかしな方向に舵を取らず、これまで積み上げてきたものを礎にしながら、物語が転がっていった事にホッと胸を撫でおろしております。物語の加速度はグングンと上がり、それらがカーチェイスアクションで発露されていく。めくるめくドライバーチェンジを積み重ねるカーアクションの連鎖(一体、この7話で何度の車の乗り下りがなされたのか)は出色の出来栄えだろう。6話、7話とすっかり蚊帳の外の男性陣もいい味を出している。倉庫に閉じ込められた別府(松田龍平)が通路に出した助けを求めるメモが無残にもひっくり返り、雪道でひっくり返っているピクニッククイズボードを家森(高橋一生)が拾う

    坂元裕二『カルテット』7話 - 青春ゾンビ
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    MINi 2017/03/02
  • 坂元裕二『カルテット』6話 - 青春ゾンビ

    カルテットメンバーが一斉に介さない。ほとんどの尺を巻夫婦の回想に費やす異色の6話である。『MOTHER』8話における道木仁美(尾野真千子)の回想、『それでも生きてゆく』7話における三崎文哉(風間俊介)の回想など、この手法は坂元裕二作品においてたまに顔を出す大技である。物語の進行を停滞させてまで語らねばならない過去というのは確かにあるのだ。 おそらくデレク・シアンフランス『ブルーバレンタイン』(2010)を意識したと思われる、壊れてしまった夫婦の時間のプレイバック。小さな声で喋る者同士が、その聞き取れなさ故に互いの距離を詰めていく、という実に瑞々しい恋の始まりが記録されている。真紀(松たか子)の好きなピエトロ・マスカーニのオペラ『カヴァレリア・ルスティカーナ』が流れ、幹生(宮藤官九郎)のお薦めの詩集に零れた珈琲が染みている。それを拭き取るための布巾を取りに台所に立った2人がキスをする。まさに

    坂元裕二『カルテット』6話 - 青春ゾンビ
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    MINi 2017/02/23
  • 坂元裕二『カルテット』5話 - 青春ゾンビ

    30分の放送を経て、やっとのことタイトルバックが現れる。その直前に披露されるのはカルテットによる実に幸福な路上演奏だ。1話のオープニングを思い出したい。路上でチェロを独奏する世吹すずめ(満島ひかり)に足を止めるものはいなかった。誰からも耳を傾けられることのなかったその音色が、彼女の運命共同体であるカルテットとして奏でられると、かくも”世の中”に浸透する。しかし、このシーンがほとんど夢のような鮮度でもって撮られているのが気になる。演奏するカルテットの表情、演奏に手拍子で称える人々。あまりの多幸感に、えもすれば覚めることへの切なさすら伴ってしまう、あの”夢”のような鮮度である。たまたま居合わせたノリのいい外人の煽りを端にして続々と道行く人が集まり、踊り出す。果たして、こんなことありえるだろうか?この過酷な現実においては、路上で無許可で演奏しようものなら、たちまち警察が現れるのではなかったか(3

    坂元裕二『カルテット』5話 - 青春ゾンビ
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    MINi 2017/02/16