「現実」を直視しない国、日本 『昭和16年夏の敗戦』(猪瀬直樹著、中公文庫)という書籍がある。日米開戦直前の夏、「総力戦研究所」が設置され、軍部・官庁・民間の若手エリート30人が開戦シミュレーションを重ねた。その予測は、現状では日本に勝ち目はないとの結論であったものの、時の政権は開戦を決断して「無残な敗戦」に至った。この政治的意思決定のプロセスを克明に描いた作品だ。この脆弱な意思決定の背後には、時の政治指導者や世論の間に「どうにかなる」との甘い期待と幻想があり、「現実」を直視しない日本の姿があったのではないか。 終戦から約60年。日本は再び、違う形で、「新たな敗戦」に向かいつつあるのかもしれない。というのは、いま急速に日本の財政・経済は悪化しつつあるからだ。象徴的な数字は、現在の日本が抱える公的債務残高(対GDP)(公的債務残高とは国・地方が発行した国債や地方債の残高や借入金などの合計をい