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ブックマーク / kasasora.hatenablog.com (5)

  • わたしたちは隔てられている - 傘をひらいて、空を

    疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。大学入試は要で急ということになったようで、わたしの勤務先でも大学入学共通テストが実施された。 わたしは研究助手として母校で働いている。この「助手」というのは教職ではなくて、助手としての仕事をもっぱらにする立場である。わたしの職場の助手は卒業生が多く、いろいろな意味で事務方・教員と学生の間に立つような仕事だ。 わたしの最初の就職先が妊娠した女性社員に嫌がらせをするところで(当時はさほど珍しくなかった)、大きなおなかを抱えて伝手をたどり、出産後半年で今の仕事に就いた。そのとき乳児だった娘は高校三年生になった。共通テストに付き添ってやりたかったが、わたしも仕事だからしかたない。 娘に激励LINEを送ってからスマートフォンの電源を切る。電子機器はすべて控え室に置くのがきまりで、試験中に着信が鳴ったら悪いので電源ごと切るのが習慣だ

    わたしたちは隔てられている - 傘をひらいて、空を
    NOKIA
    NOKIA 2021/01/20
  • ごはんつぶ離別 - 傘をひらいて、空を

    いいねえ、なんかこう、立派っぽい理由があって別れててさあ。彼女がそう言うので私は驚いた。語っていた友だちもびっくりして、ひとつも立派じゃないよと言った。 いや立派だね、私が同棲三ヶ月で別れたときに比べたらはるかに立派だねと彼女は言う。立派じゃないって、どんな理由で別れたの、あなたたちは。私がそう訊くと彼女はなぜかいばって、ごはんつぶ、とこたえた。 一緒に住んでたら、事もよく一緒にするでしょ。そしたら彼はごはんを残すわけ。残すっていうかお茶碗に何粒もはりついてる状態でごちそうさまなわけ。いやじゃない、それって。 私は少し思案してこたえる。私は米粒は残さない習慣がついてるけど、人によって作法は違うし、そんな気にするほどのことじゃないと思うよ。彼女はそうでしょうそうでしょう私も最初はそう思ったの、と勢い込んで言う。 でもだめ。なんかもう、がまんしてるとこっちがごはん入っていかなくなる。またあの

    ごはんつぶ離別 - 傘をひらいて、空を
    NOKIA
    NOKIA 2010/10/13
    洗濯物の干し方で同居人と揉めたことがある。些細な事というのは簡単なんだけどね。
  • 眠りを分けあう - 傘をひらいて、空を

    後輩が珍しく有休休暇を使ったので、何かあったのと訊いた。従姉が虫垂炎で入院して助けに行きました、と彼女は言う。仲が良い従姉なんだねえと私は言う。彼女は少し考えて、ふだんは連絡しないんだけど何かあると頼られます、私も頼ります、一年半ベッドをシェアしてたからだと思います、とこたえる。 シェア、と私が繰り返すと、そうベッドを、と彼女は言った。文字通り分け合ってたんです。昼と夜で。 そのころ彼女は大学生で、徹底してお金がなかった。小さいバーを始めたばかりだった従姉がそれを知って電話をかけてきた。私の部屋に住まない?安くあがるよ。私、店の初期費用ですっからかんになっちゃって。お金がないってすごいことですよ先輩と彼女は言う。簡単に人と一緒に住んでなにもかもシェアしちゃうんですから。 従姉の居室は一つしかなかった。不自然なほどそっけない空間だったけれども、彼女が荷物を持ち込むと少し人間がいるらしい様子に

    眠りを分けあう - 傘をひらいて、空を
  • 私の愛する単純作業 - 傘をひらいて、空を

    外は強い雨だった。コンビニに行くとずぶぬれになっちゃうから買い置きのカップ麺で済ませるよ、と私は言った。私も抽斗にカロリーメイト入ってるんでだいじょうぶです、と彼女は言った。彼がとても悲しそうな顔になったので私は彼に余っていたカップ麺をあげた。あざっすと彼は言い、私のぶんまでべりべりとパッケージを剥がして部屋の隅にあるポットに向かった。 彼らは私の後輩で、私たちは残業していた。難易度という点からは少しも大変ではなく、ただ量だけがやたらにあるというたぐいの作業だった。私たちは黙々とファイルを修整し、黙々とプリントアウトした。夜で胃をなだめたら別のファイルを修整し、プリントアウトする。あと二時間くらいかなと私は思う。 あああああと声が聞こえて振り返ると、ポットに向かっていた後輩ががっくりと崩れ落ちていた。もうひとりの後輩である女の子(もちろんとうに成人しているけれど、私は彼女にはつい女の子と

    私の愛する単純作業 - 傘をひらいて、空を
  • 新しいから傷つける - 傘をひらいて、空を

    友だちの家のPCの動作がおかしいというので見にいった。だいぶ古くて起動に十分もかかる状態だったので、さしあたり彼女が必要としているDVDの再生ができるようにクリーンインストールすることにした。 彼女の仕事用の携帯電話が鳴り、彼女は私にことわって出た。はい、いつもお世話になっております。いえいえ、はい、なるほど、担当がそのようなことを申しましたか。 彼女は五分ほど電話で話しつづけた。ほとんどは相槌だった。いろいろな種類の、さまざまな重さの、一定以上の温度を保った相槌だ。彼女はそのあと、仕事にしてはいささか親しげに短く笑って、いいえ、いいんですよ、と言ってから電話を切った。 私はBIOSを確認し、それを覗いた彼女はなんだか怖そうな画面、とつぶやく。怖くないよ、これはWindowsの下に入っているソフトなんだよと私は説明する。 ディスクがかりかりと音をたてて書きこみをはじめる。私は彼女の出してく

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