祖母の家 家の鏡台には、資生堂のドルックスのクリームや乳液やらがところせましと並んでいた。鼻を掠めるそれらの入り混じった重い粘性の匂い。山名文夫の曲線が優美な唐草模様の意匠は、だから幼いころからなじみがあった。父方の祖母はおしゃれだった。色彩感覚にすぐれていて、じぶんに似合う色を知っていた。白髪になってからは、よく薄紫やエメラルド・グリーンのニットを着ていて、とてもよく似合っていた。洋服や化粧品、買い物、美食つまり贅沢を好み、池袋の東武百貨店を根城にして開店から閉店までそこにいた。池袋の東武というのは、住んでいたのが西武池袋沿線の学園都市の駅だったことと、北関東出身の人だったから東武という路線になじみがあったのだと思う。母によると、百貨店でその日出会った人とお茶を飲んだりして、日がなウィンドーショッピングをしていたそうだ。 宇都宮の郊外のお金持ちの末っ子として、庭にカナリアのいる鳥籠をかけ