2016年07月05日14:41 by 東京創元社 渡邊利道/J・G・バラード『ハイ・ライズ』(村上博基 訳)解説(全文)[2016年7月] カテゴリSF 渡邊利道 toshimichi WATANABE 多くの点で高層住宅は、テクノロジーが真に〈自由〉な精神病理学の表現をどこまで可能にするかという見本であった。(本書五十五ページより) そこはロンドン郊外に建てられた最先端の技術とコンセプトを有した高層住宅。四十階建、一千戸。十階にはスーパーマーケット、ヘアサロン、プール、リカーショップ、トレーニングジム、住人の児童たちのための小学校があり、三十五階にはもうひとつの小さなプールとサウナとレストランが設置された、至れり尽くせりの完璧な建物だ。 外界から隔絶されたこの高層住宅には、弁護士、医師、学者、広告代理店の重役といった知的な専門職に携わる、現代の選良とでもいった人々が住んでいる。建設され