手塚治虫「火の鳥」 はじめに 一言でこの作品を評価するならば、まとまりのない曖昧な作品と言える。俗に人道主義や輪廻転生といった表面に目が奪われ気味で、読者自身、作品の全体像を掴み損ねていて、「傑作」「名作」という言葉ばかりが先行している。そうした言葉が読む上で先入観や偏見を生じさせ、作品を客観的に評する機会を奪っているように思えてならない。どの部分が「名作」たりえるのか、どの部分が「傑作」といえる根拠なのか、私にはまったくわからない。今回、あらためてこの作品を読み直し、その思いは一層濃くなるばかりで、「火の鳥」が求めた主題は一体なんだろうか、という素朴な疑問がふわりと浮かんできた。漂うつかみどころのない疑問の解答を求めて、私はこれから「火の鳥」という問題に取り組む。戻る 目次 はじめに 「黎明編」の不安定な基盤 「未来編」という苦し紛れ 「ヤマト編」で居直る