映像ディレクター・高橋弘樹氏初の旅エッセイ。 ままならない人生、幸せとは? 妙見島 〜江戸川モン・サン・ミシェル〜「苦しみ働け、常に苦しみつつ常に希望を抱け、永久の定住を望むな、この世は巡礼である」 山本周五郎の日記に引用されている、ストリンドベリイの一節の意味を、妙見島を訪れた帰りに立ち寄った、江戸川区の船堀にある「あけぼの湯」でずっと考えた。 山本周五郎は、『青べか物語』や『季節のない街』など、市井を生きる庶民を緻密な取材と、実際の生活体験をもとに描いた作家だ。この日記は、昭和3年から4年にかけ、山本がまだ売れる前、完全な私記として記し、死後『青べか日記』と題されて公表されたものだ。山本は、すでに鬼籍に入っていたこのスウェーデンの劇作家の言葉を自らになげかけ、彼を「友」とよび、「主」と呼びながら、誰に見せるためでもなく、この日記を綴った。 「予は貴方を礼拝しつつ巡礼を続けよう」 山本に