土曜日でひまなので,ちょっといたずらしますかね。 ------------------------------ 或曇つた冬の日暮。妾は横須賀発上りのうす暗いプラツトフオオムに、檻に入れられた小犬が一匹,時々悲しさうに、吠え立ててゐる声を聞きながら三等客車に乗り込んだ。それはその時の妾の心もちと、不思議な位似つかはしい景色だつた。 やがて発車の笛が鳴つた。妾は重苦しい不安を感じながら、眼の前の停車場がずるずると後ずさりを始めるのを見てゐた。三等客車は人であふれ,妾のやらうとしてゐたことができないことに気づいた。そこで日和下駄の音が鳴るもかまはず,車掌の何か云ひ罵る声も聞こえぬふりで、二等室の戸をがらりと開けて中へはいつていつた。妾は,気難しさうな,まだ三十には手がとどくまいと思はれる若い男の前に,ただ一つの空席を見つけて座りこんだ。男は汽車が動き出すとほつとした顔をして、巻煙草に火をつけなが