JINSEI STORIES 滞仏日記「哲学者が語った、コロナとの驚くべき向き合い方」 Posted on 2020/04/11 辻 仁成 作家 パリ 某月某日、どこの町にも仙人みたいな浮世離れした人がいる。我が町にも、いつも葉巻をくわえ、よれよれの革ジャンを着て、プロレスラーみたいな体躯、ギャングみたいな風貌、スキンヘッドで、不敵な笑いを浮かべ、近寄りがたい男がいた。ある日、たまたまカフェで隣同士になり、よく通りですれ違う顔見知りだったので、話しかけたら、南アの大学の先生だった。しかも哲学の博士である。人は見かけによらないというけれど、確かに、その典型的なパターンかもしれない。 夕ご飯を済ませ、仕事場の窓際から月を見上げていたら、よー、エクリヴァン(作家)、と声がしたので下を見下ろすと、アドリアンだった。きっと、外出証明書など持たずにうろうろしているのに違いない。葉巻をふかし、いつもの不