東浩紀/批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役 ※写真はイメージ(gettyimages) 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。 * * * よしながふみの『大奥』が完結した。 本作は2004年に始まった長期連載マンガである。謎の疫病で男性の数が激減し、将軍以下主な役職を女性が占めるようになった架空の江戸時代を舞台としている。19巻累計600万部(紙と電子)で、実写化のほか多数の賞を受賞している。 上記紹介から想像されるとおり、本作はジェンダー格差に厳しい視線を投げかける問題作でもある。『大奥』の世界では女性が男性の性を買う。女性の権力者の恣意で若い男性の人生が奪われる。読者はその悲劇に涙するが、同時に、性が逆なだけでその不条理が現実であることを意識せざるをえない。 とはいえ本作の魅力は、その問題提起が単純な
(このエッセイは微妙にではありますが前回のエッセイと繋がっています) ーーーーーー 移動教室の夜は、どうして好きな人の話になるんだろう。 中2のときもそうだった。僕は口を割らなかったが、2つ隣の布団で寝ていた同級生は僕と同じ人を好きだと言った。彼は騒がしくもなければ静かでもない、嫌われてはいないがモテてもいない、つまりは普通の中学生だった。 会話はヒソヒソと続き、就寝時間を軽くすぎた頃、突然彼が「あー!」と、必殺技を出すときのような声量で叫んだ。 「あー! 〇〇、おかしてえー!!」 それは、さっき好きだと言った女の子の名前。当然周りは静まり返ったが、「何言ってんだよー」と苦笑いが起きた程度で、会話はまたヒソヒソと続いた。あの山ちょくちょく噴火するのよみたいな感じで、その内容については誰も触れていない。 下ネタに疎かった僕も、状況的に何らかのワードであることは想像ができた。 男子同士で誰かが
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