式典ラッパの澄んだ音色が高らかに鳴り響くと、巡礼者たちが誘われるように姿を現した。山の向こうに日が落ちて、町に影を落とす。ここはヒマラヤ山脈にあるブータン王国の首都ティンプー。これから、この日最後の儀式が始まろうとしていた。 群衆の端のほうには、おかっぱ頭でみすぼらしい服を着た農民たちが立っていた。遠く離れた山里から3日もかけて、“都会”のティンプーまで初めて出てきたのだ。都会といっても、信号機が一つもない首都は、世界広しと言えども、ここぐらいのものだろう。広場の中央付近では、僧侶たちがエンジ色の僧服を身にまとい、互いに腕を組んで集まっている。ヤシ科の高木、ビンロウの実をかむ彼らの歯も、僧服と同じくらい真っ赤に染まっている。 僧侶も農民も、町の人々も、広場の中央に立つ少年を一目見ようと押しあいへしあいしている。少年の名はキンザン・ノルブで、年齢は7歳。オレンジ色のシャツが長すぎて、ひざから