前編に引き続き、名曲「暗い日曜日」にまつわるエピソードをご紹介します。 ──1936年2月、ハンガリーのブダペスト市警が靴屋主人ジョセフ・ケラーの死亡現場を調査中、奇妙な遺書を発見した。 自殺したケラーが書き残したその走り書きのような遺書には、「暗い日曜日」の一節が引用されていたのだ。 自らの命を絶つ者が、辞世の句の代わりとして、愛する歌の一部を引用することは、特に珍しいことではないかもしれない。 しかしこの歌に限っては別だった。 その歌は、自殺したケラーのみならず、警察にとっても特別な意味を持っていたのである。 当時、既にブタペストではでこの歌に関連した自殺者が複数出ていたのだ。 音楽酒場で地元のミュージシャンが「暗い日曜日」を演奏したところ、突然、男二人がその場で拳銃自殺をした。14歳の少女が「暗い日曜日」のレコード盤を抱きしめたままドナウ河で入水自殺した。80歳の老人が「暗い日曜日」