その特権は彼らのなかに独自の文化を生み出した。塾内では毎晩のように言論の自由が保障された「座談会」が開催され、朝鮮人学生や中国人学生たちとの議論のなかで、日本政府に対する激しい非難が連日のように日本人学生へと向けられたのだ 同世代の若者同士が一定期間、対等な立場で生活を送れば、民族の間に優劣の差などないことは誰もが簡単に見抜けてしまう。彼らは、日本は優越民族の国であるという選民思想に踊らされていた当時の大多数の日本人のなかで、政府が掲げる理想がいかに矛盾に満ちたものであるのかを身をもって知り抜いていた、極めて希有な日本人でもあった